友へ 〜Past day〜





――プルルルゥ、プルルルゥ……

 俺の携帯から普段聞き慣れる事のない無機質な着信音が鳴る。

 専らメールをメインに使っている俺の携帯は電話の着信音を全く変えていない。

 どうやら俺の幼馴染みからの着信のようだ。

 メールで済ませれば良いものを……一体何の用だ?

 軽く訝しく思いながらも待たせては悪いと思い通話のボタンを押し電話に出る。

「もしもし、一体何の用だ?」

 どことなく不機嫌な声で俺は幼馴染みに問いかけた。

 起き抜けに電話が掛かって来たのもその原因の一つだろう。

 だが、幼馴染みの一言は寝惚けた俺の頭を醒ますほど途轍もなく強烈だった。

「は……?」

 意図せずともその言葉が漏れる。いや、そんな事を聞けば大抵の反応はこんなものだ。

 電話越しの相手にもその声が聞こえたのか、もう一度同じ事を言ってくる。

「……ああ、分かった……ん? ああ、ダイジョブだ。ああ、それじゃあ」

――ピッ。

 電話を切る。

 無意味でそれでいて狂おしいほどの静寂が俺の部屋を支配する。

 もともと起きたばかりで、唯でさえ何もしていなかったこの場所の静寂が今は痛かった。

 それも当然だろう。

 訃報――そう、俺の最高の友達が死んだ何て言う知らせさえなければ……









友へ
〜Past day〜










『始まりはいつも突然で、終わりはいつも唐突だ』




 これがアイツ事ある毎に言う言葉……所謂、口癖だった。

 どこかで聞いた事があると言えば、アイツ曰く何かの本で見た記憶があるだとか。

 それで、コールが気に入ったから座右の銘にしたらしい。

 そんな事を言うアイツが真っ先に死んだ。

 何て皮肉だろうか?

 皮肉にしては惨すぎる。

 アイツの死んだ原因は交通事故。

 信号無視の車が暴走して歩道に突っ込んだらしい。

 その事故の死傷者は14名。内、軽傷者11名。重傷者2名。死者1名。

 そのたった一人の死者がアイツだった。

 突っ込んで来た車の運転手は怪我一つしていない。

 そして、事故の原因はメールを打ちながら車を運転していた運転手の脇見運転だと聞いたのはアイツが死んで一週間以上過ぎた後だった。









 手早く着替えをし、靴を履く。

 そして玄関を飛び出す。

 行き先はもちろんアイツの家。

 これでも、アイツの家には何度も行っているしアイツの両親とは顔見知りだ。

 アイツの家に着く。徒歩で十分ほどの距離だが、自転車を飛ばせば2・3分で着く。

――ピンポーン。

 家の人が出てくるまでに息を整える。

「……はい。どちら様でしょうか?」

 色白く、眼鏡をかけた学者風の男の人――アイツの父親が出てくる。

「……やあ、君か。息子のことだろう? どうぞ」

 俺の姿を見とめてアイツの家に招き入れてくれる。

「この度は、誠にご愁傷様でした」

 月並みのお悔やみの言葉をオジサンに言う。

「……ありがとう。さあ、入ってくれ。他の子も何人か着ている」

 オジサンは優しく微笑むと俺に中に入るように促した。









 無残。

 俺のアイツを見た時の第一印象だ。

 思わず目を覆いたくなるほど酷いモノだった。

 唯一の救いといえば顔に全く怪我がなかったことだろう。

 そのアイツの顔に抱きついて泣いているやつがいる。

 アイツの恋人だった女だ。

 その女はアイツとは全く正反対なタイプで常に堅い。

 その女が、今はボロボロに泣いている。それほどアイツの存在は大きかったのだろう。

「彼女、事故が起こったときこいつと会ってたんだって」

 先に来ていた幼馴染みが俺に耳打ちをする。

 事故が起こったときに隣にいた。

 それもこの女がここまで泣く理由の一つかもしれない。

 無理もない。隣を歩いていた筈の大切な人がいきなり姿を消したのだ。

 居て当然。その考えが根底から一気に崩壊したのだ。

 事実、俺ですら少なからず動揺しているのだ。

 それが恋人ともなればその差は格段だろう。

 そんな事を考えている俺自身に嫌悪感を感じて、葬式の日程を聞いて俺はその場から逃げるように帰った。









 葬式の日。俺はそこに行けずに部屋の窓から外を見ていた。

 普通なら掛かってくる筈の葬式へ来いと言う電話は掛かってこない。

 それも当然。携帯の電源はあの日から切ってある。

 今メールを確認すればかなりの数がきているだろう。

 別に葬式に行きたくない訳ではない。いや、友の葬式なのだ。行きたくないと言うやつはそういない。

 それでも俺は行かなかった。

 何故だか悲しめないのだ。

 アイツが死んだという事実を認めていない訳ではない。

 実は友達関係が希薄だったという訳でもない。

 何の理由もなかった。

 いや、ただ別れの言葉を口にするのが嫌だったのかもしれない。

 そう、別れの言葉を言ってしまうとアイツが思い出になる気がしたから。

 だからその日、俺は部屋の静寂に身を任せていた。

 でも、折角だから一言だけアイツに言葉を送ろうと思う。

 ここからじゃ聞こえないかもしれないが、別れの言葉でもないのだ。別に問題はないだろう。

「俺は、神は信じなくても人の魂が輪廻転生する事は信じているんだ」

 虚空に向かって前置きを一言。

 まあ、こんな事言わずともアイツには伝わるだろうが、一応だ。

 そして、俺は――




 窓を開け、息を大きく吸い、大声で、叫んだ。




「また、どこかで……!」と。













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あとがき

初めに断っておきますがこの作品はフィクションです。
私の体験談ではありませんのであしからず。

さてさて、シリアスモードぶっ通しでお送りした今作ですが……
こいつはぁ……ダメだ(爆
私にはまだ早すぎる題目です。これ。
あと、百年位生きなくては(無理です

あと、人の名前がないのは感情移入しやすいようにとやってみたのですが……
こんな短い作品じゃ、感情移入もクソもないです。
二つも新しい試みをして失敗してる(汗

ではでは、これ以上傷口を広げぬうちに〆ます。白犬でした。



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